本当にEVは普及するのか?【普及を妨げる3つの壁】
「大きなメーカーがEVを出しているけど、EVって本当に普及するの?」という疑問を持っている方は少なくないのではないでしょうか。
本記事では、EV開発に5年以上関わってきたエンジニアの観点から、実態を踏まえながら「EVは本当に普及するのか」というテーマについて解説していこうと思います。
結論から言えば「普及はしなくても、EVの将来は明るい」です。
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EVは普及しない
「普及」の言葉の意味は「広く一般に行き渡ること、行き渡らせること」です。
現代でいうスマートフォンやノートパソコンなどが普及した製品といえますね。
EVが普及した状態を例えるならば、エンジンがついた車はガラケーのようなもので、ほとんど乗っている人いない、という状態ですね。
筆者は少なくとも今後20年は、こういった状態にはならないと考えています。
なぜでしょうか?
EV普及までの3つの壁
EVの普及が難しい理由として、下記の3点があると考えています。
- 充電インフラ問題
- 本当に環境に良いのか?
- 欲しいクルマがない
充電インフラ問題
「EVがなぜ売れないか」と聞くと、実は多くの方が「航続距離が少ない」「どこまで行けるかわからない」「バッテリーが終わったら怖い」ということを答えると思います。
もちろん、1回の充電で走れる距離が短い、というのは問題です。
しかしここの本質的な問題は「充電インフラ」にあります。
数が圧倒的に少ないのです。
全国のガソリンスタンド数は2019年の統計で約30,000箇所あります。
1箇所のガソリンスタンドでは少なくとも3台以上が同時に給油できるでしょう。
比べて、急速充電器の数は約8,000基。
この数字は1基あたり1台しか充電できない事を意味します。
1台あたりの航続距離がガソリンエンジンと同様500kmだとしても、充電できる箇所が少なければ安心して乗ることはできません。
しかしガソリン車であれば300kmしか走れなくても、おおよそどこに行けばガソリンが入れられるかは感覚的に心配がないので、心理的障壁はありません。
EVがどこでも充電できる、という心理的な安心感を与えるためには、少なくとも今の3倍以上は急速充電器が必要です。
しかし、急速充電器を整備するコストが高額な割に電気単価が安く、構造的にビジネスになりにくい側面を持っています。
現状ではまだまだ稼働率が低く、設備投資を回収することも難しいということが、充電インフラの整備を妨げている要因と考えられるでしょう。
本当に環境に良いのか?
ゼロエミッションをうたうEVは環境に良いと言われてきましたが、そこに疑問の声が上がっています。
火力発電の電力やリチウムイオンバッテリーを製造するCO2排出量を考慮すると、エンジン車よりもCO2排出量が多いのではないか、という反論です。
ここについて、IEA(国際エネルギー機関)が一つの結論を出しています。
IEA report Global EV Outlookより引用
オレンジ:クルマの走行で発生するCO2
濃いオレンジ:化石燃料を掘ってクルマに供給するまでのCO2
緑:バッテリーを製造する過程で発生するCO2
水色:車両を製造、リサイクル、廃棄する過程で発生するCO2
濃い青:車両の原材料や交換部品を製造する時に発生するCO2
(1年あたり15,000km、寿命は10年 = 15万km)
これは、1台のクルマが製造されて廃棄されるまで、つまりライフサイクルのトータルCO2排出量をパワートレイン別に比較しています。
発電に関わる化石燃料は2018年の平均値をベースにしていますので、現状の火力発電に起因する電力も含まれています。
つまり、現時点においてもライフサイクルでは既にEVは最もCO2排出ガスが少なくなっていることがわかります。
そして今後火力発電が自然エネルギーに置き換わっていくことで、上記グラフの濃いオレンジの部分が減少していくことが期待されており、従ってEVはCO2減少に貢献できる有効な手段であるといえます。
EVで欲しいクルマがない
これが実は意外と致命的なポイントかもしれません。
EVに乗りたいなと思っても、欲しいEVがラインナップにない、ということです。
現在、日本で手に入るEVは5本の指で数えらえるくらいの車種しかありません。
そしてそれぞれのEVが広く受け入れられる商品にはなっていません。
なぜでしょうか?
そもそも各メーカー共に電気自動車は、本来製品企画にあるべき「お客様が求める製品を提供する」という基本原則があって開発しているものではありません。
各国の政府は自動車メーカーに対して、CO2を減らす施策を求めています。
「ガソリン車を売りたかったら、同じ分だけゼロエミッションのクルマを売りなさい」
といった規制が欧州、北米で施行されています。
各メーカー共にお客様を見て商品企画をしているわけではなく、「EVありき」→「それを買うのはどんな顧客か」という視点で商品企画をしています。
(電気自動車メーカーであるテスラは例外)
その結果、売れ筋のターゲット層ではなく、ユニークでEVをアピールできるハイブランドな企画になりがちです。
訴求するお客様の層というのも必然的に「アーリーアダプター」と呼ばれるような、新しい物好きのニッチな商品になるため、一般的なお客様はターゲットにならないのです。
つまり大手メーカーにとって「普及」させるという事は目的ではないことが分かります。
EVが普及しなくても未来は明るい
ここまで、EVは普及しない、と書いてきました。
しかし、EVの未来は明るいと考えています。
今後の自動車は、完全なガソリン車、ハイブリッド、プラグインハイブリッド、EV、FCVと、様々なパワートレインが出てくる事で多様化が進むと考えられます。
そして短距離のみの走行や決まったルートを輸送する商用車はEV、軽自動車のような小さなクルマはガソリンエンジン、
ミドルサイズのクルマはハイブリッド、高級セダンはプラグインハイブリッドと言ったように、それぞれの目的に適したパワートレインが選ばれていくと考えられます。
これが、メーカーが規制に対応しつつ、顧客の満足度も満たせる唯一の方法です。
さらに、開発が進んでいるMaaSと呼ばれる自動運転かつ人々の移動手段となるモビリティの多くは、制御の容易さや自動運転との協調のしやすさからほとんどが電気自動車です。
「普及」はしなくとも、目的に特化したユニークなEVがこれからも増えていきます。
そして、あなたが何らかの形でそのEVに乗る未来はもうすぐそこに来ているかもしれません。
それでは、良い1日を。