テスラの車は何がすごいのか【エンジニア目線で解説】

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テスラという自動車メーカーは、何かと時価総額や創立者のイーロンマスク氏のニュースで話題になっているので、名前だけは知っているという方も多いかもしれません。
しかし、

  • 「テスラってどんな会社?」
  • 「テスラの車は何が凄いの?」
  • 「ずっと赤字と報道されているけど大丈夫なの?」

上記のような疑問について明確な答えを持っている方は、あまり多くないのではないでしょうか?

今回はこういった疑問について、自動車エンジニア時代の経験も踏まえながら独自の切り口で解説してみたいと思います。

本記事を読むと、テスラという会社の基本情報が得られるだけでなく、報道などではあまり語られないテスラの本質的な強みの片鱗を見つける事ができるかもしれません。

目次

テスラってどんな自動車会社?

テスラってどんな会社?

テスラは2003年にアメリカのカリフォルニア州に設立された電気自動車を専門とする自動車メーカーです。

マーティン・エバーハードとマーク・ターペニングという2人の技術者によって設立されました。
現CEOであるイーロン・マスクは2004年のシリーズA増資の際に参画しています。

創業から5年でクルマを販売

2008年に初のモデルであるテスラ・ロードスターを発売しています。
Tesla Roadster 2008
自動車開発においては、デザイン、設計、評価、部品調達、生産準備といった、大変多くのクリアしなければならないプロセスが存在します。

まったく新しいクルマを開発して、公道で走行させるために必要な認証取得まで4年で完了させてしまうというのは、驚異的なスピードと言わざるを得ないでしょう。
このテスラ・ロードスターは最終的には約2500台を30か国以上で販売しています。

今ではあまり凄いように感じないかもしれませんが、量産EVの先駆けと言われる日産リーフでさえ、発売されたのは2010年の出来事です。

リーフの量産開発が始まるかどうかという2008年に彼らはこれを成し遂げました。

当時は車載のモーターもバッテリーも使えるものは限られていたでしょうし、供給先を探すことにとても苦労したのではと想像します。

大量生産に向けた工場建設

大量生産に向けた工場建設

2010年にカリフォルニア州中部のフリーモント工場を、NUMMI(GM−トヨタのジョイントベンチャー)から買い取り、本格的なEVの量産に向けた1歩を踏み出すことになります。

このテスラファクトリーと名付けられた工場で、主力のフラッグシップセダンであるモデルS、これをベースに派生したSUVタイプのモデルX、また本格普及を見越したモデル3に至るまで生産しており、グローバルにおける主力工場として現在も稼働しています。

正式なアナウンスはされていませんが、2018年には年間50万台規模の能力まで増強するという計画を発表しました。
トヨタ プリウスを国内で生産している愛知の堤工場が37万台の実績ということから見ると、1つの自動車工場としては既に大企業に匹敵する規模であると言えます。

それ以外にも、バッテリーを大量生産して調達コストを低減するためにネバダ州に「ギガファクトリー」という工場を設立したり、
自動車以外にもソーラーパネルや定置型バッテリーを提供する子会社を設立し、ビジネスの幅を広げています。

2018年には、中国で初めてとなる外資100%の自動車メーカーとして上海に「ギガ・シャンハイ」を建設し、世界最大のマーケットである中国国内におけるシェアを伸ばしつつあります。

テスラの車作りが強い3つの理由

テスラの車を構成する3つのコア技術

電気自動車という点で見れば、BMWやメルセデス、日本では日産でも製造していますが、なぜ創業から20年も満たないテスラがこれほどまでに成長しているのでしょうか?

テスラの強さは

  • 他社の数年先をいく高い技術力
  • 過去に縛られない理想のクルマ作り
  • 独自インフラの構築

というところにあると思っています。



他社の数年先をいく高い技術力

テスラの技術力というと、電気自動車を作っているのでモーターやバッテリーの技術力だと思うかもしれません。
もちろん、これらの分野において高い技術力を持っているのは確かですが、本質は車両を制御するためのECUと呼ばれるコンピュータにあります。

インターネット経由で車載コンピュータの制御をアップデートする、OTA(Over The Air)の採用、複数に分散しているECUを1つの高性能なECUを中心とした車両の制御を行う「統合ECU」の採用という点は他のメーカーから見ると驚異的な判断でした。

両方とも、欧州含めた大手メーカーは検討しているものの、統合ECUなどは少なくとも2025年の実用化を目指した先行開発の段階にあります。

また、2019年に発表した統合ECUである「HW3.0」は、完全自動運転に対応できる性能を有しており、現在世の中に走っている車両でも後日のアップデートにより、自動運転機能をアップグレードしていくことが可能です。

完全な自動運転を実現するためには、多数のカメラから来る映像データを瞬時に解析し、判断しなければならないため凄まじく高性能なチップが必要になります。
HW3.0に搭載されるチップをテスラは自社開発しています。(コアはARM社、製造はSAMSUNG)

主力チップそのものを自動車メーカーが自ら開発するというのは聞いたことがありません。
テスラにおける自動運転の要となるチップを自社で開発することは、同じチップが他社に使われることがないということ、メーカ側の都合に左右されないことなど、多くのメリットがあります。
多額の投資をしてまでも、自社開発する価値があると判断したのだと思います。

自動運転は、2019年現在においては法規制の関係でレベル2までが実現可能ですが、2020年内には新しい法規が施行され、国内でもレベル3が実用化される見込みです。

自動運転レベルの詳細について知りたい方はこちら

過去に縛られない理想の車づくり

過去に縛られない理想の車づくり

テスラは設立から20年も経っていない、自動車メーカーとしては新興ブランドです。
そのため、他社と同じフィールドでビジネスをやっていく上では、設備の観点でもノウハウという面でも、かなりのハンデを背負うことになったのは間違いないでしょう。

しかし、この「過去が何もない」ということがテスラの今の地位を築いていると思います。

上記で統合ECUについて書きましたが、他社にこれができないのは単純に技術力が足りないからではありません。
むしろ、本気でやろうと思えばテスラよりも高度な制御システムが構築できるはずです。

ではなぜ現状できていないかというと、
 ・彼らには既に古いアーキテクチャで生産しているクルマがあり
 ・生産するための工場や設備があり
 ・それに最適な設計をするチームがいるからです。

大手メーカーにとって、今まで長い時間をかけて構築してきた基準やプラットフォームを、いきなり全く異なるルールと基準で作るということはとても大変なことです。

今まで柔道をずっとやってきた人が、今日からはキックボクシングのルールでやりましょう、と言われてもすぐに結果は出せないのと同じです。

テスラは、何もないところから彼らなりの「理想的なクルマはどうあるべきか」を考えた上で設計し、その方向性を突き詰めています。

メーターがなくてディスプレイしかないインパネは味気ないよ、というような好き嫌いの観点はあるかもしれませんが、少なくともOTAによるアップデートや、統合ECUの考え方は企画、設計段階から緻密な構想がなければ実現は不可能です。

独自インフラの構築

テスラは本来自動車メーカーのはずですが、彼らは電気自動車のインフラである世界最速の充電システムを構築し、全世界に整備しています。

スーパーチャージャーと呼ばれる充電システムです。

設計上120kWという高出力で、バッテリーが空に近い場合は実際にこの出力で充電が開始されます。
ちなみに日本で普及している多くのCHAdeMO規格の最高出力は50kWです。

スーパーチャージャーの使い勝手はとてもスマートに設計されており、充電器側の操作や認証を全くせず、充電ノズルを近づけるとポートが開き、クルマに差し込むだけで充電がスタートします。

電気自動車の普及について、電気自動車が増えなければ充電ネットワークはビジネスにならないし、豊富な充電ネットワークがなければ電気自動車は売れない、という鶏と卵の議論がなされることがよくあります。

テスラは自ら理想的な充電ネットワークを構築し、電気自動車の社会を実現しようとしています。
どれだけクルマが売れても赤字がなくならない理由には、こういったインフラへの投資も多くを占めています。

ガソリンスタンドのフランチャイズを経営している自動車メーカーがあるでしょうか?

本来、自動車製造業というのは、開発・製造しているだけでも開発に関わる労務費をペイして、黒字にするのは難しいビジネスです。
それを充電インフラにまで投資をしていたら、通年で黒字にならないことには、何の不思議もありません。

しかし、現在においても、このテスラユーザーしか享受できないスマートかつ最速の充電ネットワークが増え続けています。
これは将来、何らかの理由でEVを購入しようという人が増加した時に、とても強いアドバンテージになるのではないでしょうか?

車づくりを超えた未来のビジョン

車だけではない、テスラが目指すビジョン

テスラ、というかこれはイーロン・マスクが描く未来像といえるかもしれません。

彼は「テスラは自動車メーカーではなく、エネルギー企業である」と公言しています。

そして、持続可能かつクリーンなソーラーエネルギー社会を作ることを目指しています。
これを実現するために、自動車のエネルギーは電気であることは必要な条件でした。

「電気自動車を作って、売りたい」というだけの目的であれば、ソーラーパネル事業を展開する必要はありませんし、スーパーチャージャーなどのインフラにまで赤字を出しても投資する意味がありません。

テスラは他の自動車メーカーとは異なるビジョンを持っており、投資している対象も異なることが分かると思います。
他のメーカーはソーラーパネル事業はやりませんし、充電インフラも自ら整備はしません。

既存の自動車メーカーとの単純な比較は実はあまり参考にならないことが分かると思います。
良くも悪くもユニークな自動車メーカーであるテスラの今後を引き続き注視していきたいと思います。