トヨタが街を作る!?「Woven City」とは

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2020年1月にラスベガスで開催されたCESにて、トヨタが驚きの発表をしました。
2020年末で閉鎖が決まっている、東富士工場の跡地に「Woven City」という街を作るというのです。

この記事では、トヨタの公式発表と豊田章男社長の言葉から、その本質を紐解いてみたいと思います。

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街の目的は自動運転の開発じゃない?

目的は自動運転じゃない?
ラスベガスのCESでの発表から、様々なメディアこれを大きく取り上げて、Yahoo!ニュースにも掲載され話題になりました。
多くの印象としては、「公道では自動運転の開発ができないから、街ごと作ってそこで実証評価をやるのが目的」という報道が多かったように思います。

自動運転の試験をやるための擬似的な街、という意味では、実はそういったテストコースをメーカーは既に持っています。

「クルマの開発」という目的だとすれば、今持っているテストコースで事足りてしまうはずだし、自動運転のためにこれだけ壮大な街を作るという報道は不自然に感じていました。

調べてみると、自動運転車の開発が目的ではなく、もっと壮大なスケールの目的が見えてきました。



トヨタが作る街とは、どんな計画?

どんな計画?

百聞は一見にしかず。
まずはプロモーション動画を見てみましょう。

トヨタからの公式発表におけるWoven Cityの説明は以下の通り。

  • 街を通る道を3つに分類し、それらの道が網の目のように織り込まれた街を作ります。
  • 1)スピードが速い車両専用の道として、「e-Palette」など、完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走行する道
    2)歩行者とスピードが遅いパーソナルモビリティが共存するプロムナードのような道
    3)歩行者専用の公園内歩道のような道

  • 街の建物は主にカーボンニュートラルな木材で作り、屋根には太陽光発電パネルを設置するなど、環境との調和やサステイナビリティを前提とした街作りを行います。
  • 暮らしを支える燃料電池発電も含めて、この街のインフラはすべて地下に設置します。
  • 住民は、室内用ロボットなどの新技術を検証するほか、センサーのデータを活用するAIにより、健康状態をチェックしたり、日々の暮らしに役立てたりするなど、生活の質を向上させることができます。
  • e-Paletteは人の輸送やモノの配達に加えて、移動用店舗としても使われるなど、街の様々な場所で活躍します。
  • 街の中心や各ブロックには、人々の集いの場として様々な公園・広場を作り、住民同士もつながり合うことでコミュニティが形成されることも目指しています。

トヨタ自動車の公式HPより引用

トヨタの街、キーワードはこの5つ

この発表からは以下のキーワードが重要なポイントであるということが分かります。

  • 3つの道
  • サステナブル
  • インフラの地下化
  • AI・ロボット
  • コミュニティ

1つずつ見ていきましょう。

3つの道

まず、大きなトピックとしては3種類の道を作るということです。

① 完全自動運転かつゼロエミッションのモビリティのみが走る速い速度の道。
② 歩行者とパーソナルモビリティが共存する道
③ 歩行者がゆっくり歩ける公園のような道

つまり、現在の道を走っているようなマイカーや自転車というのは存在しません。

まずここにおいて一番注目すべきは①で、完全自動運転のみが存在し、実用的に利用される環境を作れるということが主な目的であるといえます。
他の歩行者や自転車などを排除することで、どのように優れた交通システムが構築できるのかという評価を素早く実行することができるでしょう。
また適度に②や③といった速度の違う交通網と交差させることで回避のルールやこういった街における安全対策を構築することも重要なポイントであると思います。

サステナブル

ここで言うサステナビリティとは、CO2排出量が少ない街、と言い換えることができるでしょう。
発電所に頼らず太陽光エネルギーで電力をまかなうだけでなく、建物の建築においてもカーボンニュートラルの材料を使うことで、持続可能な街を目指しています。

この部分においては、自然エネルギーでの発電と貯蓄を、家庭レベルではなく街全体でのスマートグリッドを検証することが考えられるでしょう。
燃料電池発電にも言及していることから、水素状態でのエネルギー貯蓄も考慮しているかもしれません。
モビリティが電動化するのであれば、全ての電力を自然エネルギーで補うことができるのかといった部分が注目ポイントになるかと思います。

インフラの地下化

現状、一般的な街で地下に埋められていない主なインフラは電力線と光ケーブルです。

街の仕様が決まっていて、街の仕様が決まってさえいれば、これらを地下に埋めるということ自体は技術的には可能だと思います。
しかし新しい設備やインフラを整備しようと思った時に、電力線の工事や自由な拡張ができるかどうか?ということが課題になりそうです。

AI・ロボット

家庭を支えるロボットや、人々の健康データ等を分析するAIの活用を目指していますが、おそらくスマートホームと呼ばれるコンセプトがこれに当たると予想できます。

帰宅すると勝手に電気を付けてくれたり、健康状態や気分を検知して照明の色や明るさ・匂いを変更、冷蔵庫の中身や作りたい献立を予測して必要に応じて食料品を発注したり・・・など、AIと家は親和性が高いと思われます。
しかし、やり過ぎると単なるお節介にもなってしまうため、ここのバランスの線引きをすることが狙いの一つにあげられるでしょう。

コミュニティ

そこに街があればそれがコミュニティになるだろうと思いますが、実際のところ昨今ではご近所付き合いの文化はかなり減ってしまっているのが現状ではないでしょうか。
AIやロボット、また自動運転やパーソナルモビリティが普及した世界で、どのようにコミュニティが形成されるのでしょうか。

スマホやSNSの発達で、人に合わなくてもコミュニティが簡単に構築される現代において、さらに高度化したWoven Cityでどのように人々が付き合っていくのか、非常に興味があります。

トヨタの街の本当の目的とは

トヨタの街の本当の目的とは

これらのキーワードが分かってくると、自動運転の技術を開発するためではないということが理解できると思います。
それでは、何が本当の目的なのでしょうか?

人を中心とした街づくり

豊田章男社長はCESでこの発表をした後、すぐに帰国し東京オートサロンにてトークショーを行いました。
そこでWoven cityについて語っている動画がありますのでご覧ください。

ここで章男社長が言っている言葉に「人を中心とした街づくり」というキーワードに全てが詰まっていると感じます。

つまり、自動運転やロボット、AIといった個々のテクノロジーを開発するということではなく、それを利用する「人」が中心となって、その利用者がテクノロジーを育てていく場であるということではないでしょうか。

人がテクノロジーを育てる

これは一見似ているようで、製品開発という立場から見ると大きく意味が異なります。

一般的に製品開発というのは一方通行です。
経営者や企画チームが決めた仕様に合わせて、品質よく、安く、早く沢山作れるカタチを作るのが従来あるモノの開発です。

しかし、実際に何かのテクノロジーを街で実証しながら、そのフィードバックを元に改良をしていくというスタイルは、言い換えれば求められる仕様が変わっていくダイナミックな開発ということになるでしょう。

これができる最大のメリットは何でしょうか?
それは間違いなく、テクノロジーの開発スピードが急速に上がることです。

開発のスピードが上がる、という理由は2つあります。

1つは、実験室やテストコースではなく、実際に利用者がいる実証実験をすぐに行うことができることです。
そしてもう1つは、他のテクノロジーとの関連性がすぐに明らかになることです。

テクノロジーが絡み合いながら進化する

例えば、自動運転車だけを開発していれば、その安全性や性能については優れたものが完成するかもしれませんが、サービスとしての使われ方や5Gなどの通信技術、AIによる分析とのシナジーを実証しようと思うと、自動運転車として何を考えればいいのか分からなくなります。

しかし、この街で実証することによって、利用者が「こうあったらいいな」というのがすぐに分かるのです。

これがクルマだけではなく、先ほど挙げた5つのキーワードを実現するためのテクノロジー全てがここで実証実験できることになります。
1つのテクノロジーが進化すれば、それが他のテクノロジーに影響をあたえ、それが連鎖して様々なテクノロジーが相互に絡み合いながら開発が進んでいくことが予想できます。

Woven Cityのネーミングには、道や人だけでなく、多くのテクノロジーが網目のように進化していく、そういう意味も込められているのかもしれません。

それでは、良い1日を。