【解説】LiDARとは?自動運転におけるカギ
LiDARが自動運転には重要!というニュースを多く見かけるようになりました。
この記事では「LiDARって何?」「それ使うと何がおいしいの?」という疑問について解説していきます。
目次はこちら
LiDARとは?自動運転を支える次世代センサ
LiDARとは何の略かというと、
“Light Detection And Ranging”
「光で検知して距離を測る」という意味です。
光で距離を測るセンサー
つまり、LiDARというのはセンサーです。
何を測るためのセンサーかというと、自分から周囲の物体までの立体的な「距離」を測定します。
原理は、レーザー光を一瞬だけ照射し、返ってくるまでの時間を算出することで距離を測定します。
1回やるだけでは1点のみの距離しか測れないので、レーザーを向ける方向を少しずつ変えて繰り返し計測することで、色々な場所の距離が計測できます。
レーザーを向ける方向を横だけでなく縦にも動かすことで、立体的な点を集めたデータを取得することができます。
実際にはこれを人間には観察できない超高速度で繰り返すので、一瞬で立体的な距離データを取得することが可能です。
実際にLiDARで取得したデータを見えるようにした動画がありますので、ご覧ください。
動画では白い線のように見えますが、全て点のデータです。
レーダーと何が違うのか
似たようなセンサーでレーダーというセンサーがあります。
レーダーは昔から様々なところで使われているので、聞いたことがある方も多いかもしれません。
Radarは
“Radio Detection And Ranging”
「電波によって検知して距離を測る」という意味です。
こちらは電波を使って距離を計測するセンサーです。
では、電波と光、何が違うのでしょうか?
電波と光、厳密には同じ電磁波なんですが、「波長」が違います。
電波も光も「波」なんですが、この波と波の距離が「波長」と呼ばれています。
波といったら海ですが、海の波と次の波の距離は10mくらいありますよね。この長さが波長です。
クルマのセンサーによく使われるレーダーは「ミリ波」レーダーといって、この波長は1~10mmの範囲内です。
ではLiDARはどのくらいかというと、約0.001mm以下です。
つまりレーダーと比べると、波長の長さが1000〜10000分の1ということになります。
また、現在のクルマに搭載されているミリ波レーダーは、前方1方向の距離しか計測できないため、担う役割が異なります。
LiDARは自動運転になぜ必要なのか?
では、なぜ自動運転にLiDARが必要となるのでしょうか?
LiDARの必要性とは
自動運転レベル3と呼ばれる自動運転を実現するためには、カメラやレーダーだけで取得できない立体的な距離データを取得する必要があるためです。
【解説】自動運転 レベルの違い 〜ポイントは3つ〜
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自動運転レベル2の多くのクルマでは、カメラとレーダー、もしくは1方向だけに照射する赤外線レーザーを組み合わせることで、主に前方の様子を分析しています。
前方の車両に追従するアダプティブ・クルーズ・コントロールや、クルマが車線から外れそうになると中央に戻すレーン・キープ・アシストなどの機能にこの検知技術が使われています。
カメラの映像は2次元データですが、例えば子供が写っているとか、白い車線が写っている、ということを映像処理しています。
さらにクルマの前方に取り付けたレーダーで前に走る車や壁が迫っているということを検知します。
しかし、カメラや処理技術も完璧ではないため、誤認識や不具合などでクルマが間違った動作をした場合、修正しなければなりません。
自動運転レベル2までは、常にドライバーが周囲状況を監視し続けることが前提にあるため、クルマはドライバーに頼ることができます。
しかし、一時的にドライバーが運転から開放される自動運転レベル3ではドライバーの代わりになる目が必要になります。
それがLiDARの役割です。
LiDARはどう使われるのか
自動運転レベル3を実現する車両は前方だけでなく、横や後ろなど全方位をカメラで認識する必要があります。
無人で駐車したり、ドライバーの元まで無人で走ってくることも想定されています。
従って、基本的な周囲の状況というのはカメラで認識することになります。
そして、そのカメラで解析した情報とLiDARで取得したデータを照らし合わせることで、カメラにおける情報に間違いがないことを担保することができます。
三次元的なデータが取れるなら、カメラ無しでも成立するのでは、と思うかもしれません。
しかし、LiDARではレーザー反射で捉えた「カタチ」が認識できるだけなので、例えばそれがゴミ袋なのか、岩なのかは判別できないでしょう。
今でもAIを用いることで1枚の画像だけで人の顔が認識できるように、細かい色の変化などはカメラに勝るセンサーはありません。
それぞれの長所をうまく組み合わせたセンサーを使っていく必要があるのです。
LiDARの採用における課題
ここまでLiDARの利点や活用方法について解説してきました。
しかし、LiDARの普及に向けては乗り越えなければならない課題があります。
大きく分けて、下記の通りだと思います。
- 価格
- サイズ
- 耐久性
価格
普及を阻む最も大きな理由がこれでしょう。
2010年代から数多くのベンチャー企業が開発を進めていますが、高性能かつ高耐久のLiDARは数百万円するものが多く、量産車への採用は程遠いものがほとんどでした。
しかし2020年から、クルマへの採用を見据えた1万円台の量産モデルをアメリカのシリコンバレーを拠点とするVelodyne社が発表しており、採用が進んでいくものと思われます。
サイズ
クルマに搭載する上ではサイズの大きさは非常に問題になります。
LiDARは設置する場所や向きにも制限があるため、クルマのデザイン性や車内の空間を損なうことが考えられます。
レーザーを照射するユニットや反射光を捉えるセンサの関係上、カメラと同じ検知範囲でもLiDARの方が大きくなってしまいます。
物理的にカメラより小さくすることは難しいため、デザイナーにとっては悩みのタネになるかもしれません。
耐久性・信頼性
量産モデルがまだ市場に出ていないため、耐久性・信頼性の実力についてはまだ情報が多く出てきていません。
全方位を照射できるLiDARは、モーターでミラーを回転する構造となっているため、機械的な耐久性が問われています。
また光源である半導体レーザーも、その特性上寿命が決まっており、自動車のような温度環境が厳しい使い方をした時に、どのくらい持つのかという評価が必要です。
自動運転で活用するLiDARは従来の赤外レーダーよりも使用頻度、レーザー強度共に負荷が高いため、従来以上の耐久性が求められると考えられます。
LiDARの今後
最後に、LiDARがどのくらい普及していくのか?ということについて考えてみたいと思います。
ここまでLiDARのメリットや課題について解説してきましたが、LiDARが普及しほとんどの車に採用されるまでにはまだ時間がかかりそうです。
テスラはLiDARに否定的
自動運転レベル3以上を実現するためには必要、ということを上記に書きましたが、自動運転の実用化について積極的なブランドの一つであるテスラはこれに否定的です。
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テスラは、カメラで捉えた映像の処理技術こそが将来の自動運転技術を支えるというスタンスであり、高価なLiDARは使うべきではないという独自のポリシーを持っています。
2020年現在に売られているモデル3では1台の車あたり23個のカメラが搭載されています。
これだけ多くのカメラを処理するためには非常に高性能なコンピュータが必要になりますが、テスラはチップを独自開発するなど、カメラによる処理技術を高める方向に舵を切っています。
一方で、多くの大手メーカーはカメラとLiDARの併用を考えており、これによって自動運転レベル3以上を実現しようとしています。
しかし、LiDARを採用した自動運転の車両は高価になることは避けられません。
上記で説明した通りLiDARセンサーそのものの価格も根底にはありますが、一番の問題はLiDARも含めたカメラなどのセンサーから来る情報を処理するコンピュータの価格が非常に高価であることです。
現代の技術のみならず、5Gによる通信やAIによる分析など、車載コンピュータの性能向上はまだまだ続きます。
これによって考えられることは、しばらくの間は自動運転レベル3以上の機能は一部の高級車や商用車に限られるだろう、ということです。
トヨタを初めMaaSという考え方が形になりつつあり、サービスとしてのモビリティといった用途に使われる自動運転車から実用化が始まっていくものと考えられます。
今後も進化を続けるLiDARと自動運転技術に注視していきたいと思います。
それでは、良い1日を。